”医療におけるイノベーションとは”小橋英長先生/未来を描く30人の医師のライフストーリー

医療4.0×医師ラボコラボイベント

このイベントは、『医療4.0』という本で紹介されている医療イノベーターの方のお話を聞くことで、医療イノベーションの真髄に迫ろうというイベントです。今回は、慶應義塾大学眼科の小橋英長先生です。

 

まずは、小橋先生の紹介と略歴に触れます。そして、1)イノベーション、2)トランスレーショナルリサーチ 、3)研究内容、4 )留学、5)今後のビジョン という5つの視点から小橋先生の見ている世界をご紹介します。また、「ライターの視点」として、医学生であるライターから見た見解を添えさせていただきました。

小橋先生の紹介

現在、小橋先生は、慶應義塾大学眼科学で研究と研究シーズを生かした産業創成にとり組まれております。大学発ベンチャーの株式会社坪田ラボにも所属されております。現在は、研究とビジネスにフォーカスされていますが、アメリカ留学など様々な経験をお持ちの先生です。

プロフィール紹介

小橋 英長(こばし ひでなが)

杏林大学医学部卒業、慶應義塾大学眼科学教室 特任講師、IoMT学会評議員

2006年 杏林大学卒 同病院初期臨床研修

2008年 北里大学眼科

2013年 北里大学大学院 医学博士

2016年 米国スケペンス眼研究所

2017年 慶應義塾大学特任講師・坪田ラボ

 

医師になる決意〜研修医

きっかけは、高校生のときに摂食障害にかかったことです。最初は、あれ?おかしいな、と思って自分で色々調べたんです。当時は、ネットが無かったため、本などで情報収集をした結果、「摂食障害かもしない」という結論にたどり着きました。調べる過程を通して、摂食障害の認知度の低さや病態メカニズムの複雑さを知るようになりました。そうした経験を通して、将来何をしたいかを考えたときに、「こういう病気を精神科医として見つめたい」と思ったんです。そのため、医学生時代から精神科医の方とお話ししたり、精神病院を見学させてもらったりしていました。

ところが、研修医として精神科を回っているうちに、これらの病気は自分では治せないな、と感じてしまいました。そして、精神科医から逃げるような形にはなってしまいましたが、興味は眼科に移っていきました。眼科では、その科内で全てが完結するんです。さらに、白内障手術はとても魅力的だし、レーシックも流行っていました。そういった眼科の魅力に惹かれるようになり、眼科医になろうと決めました。

 

自分にしかできないことをやるために

眼科医は日本に1万3000人いますが、そのうち半分以上は開業医。ただ、私は開業にはあんまり魅力を感じなかったんです。開業してしまったら、イノベーティブなことや自分にしかできないことに挑戦できないだろうな、と思っていました。自分にしかできないことやイノベーティブなことにこそ、仕事の面白さや生きがいがあると考えているため、開業医という選択肢はその価値観に沿っていないのです。

現在は、眼科10年目ですが、英語論文を50本以上、ファーストで20本目を書いているところです。論文を書くことは、私にとってとても楽しくて、それは北里大学にいたときの直属の上司である先生が、毎月のように論文を出していたことがきっかけです。そんな先生に出会えたことで、論文を書くことをあまり苦に感じなかったっんです。

振り返ってみると、研究室の人や家族などを含めていい仲間に恵まれてきたなと感じています。

ライター槌田健太
自分の幸せに対する価値観や一番達成したい目標を定めておくと、全ての選択肢は、その目標に価値観や目標に対する手段に過ぎないのだと感じました。

1 イノベーションを起こすために!

Innovation = invention x commercialization

社会変革        技術革新    商業化

イノベーションを起こすには、invention(技術革新、研究) と commercialization(商業化) という2つの視点が必要です。この2つは、自転車の両輪のようなもので、どちらが欠けてもイノベーションを起こすことはできません。どんなにいい研究でも社会実装のためには、commercializationが必要不可欠なんです。実際、政府の方針としても、大学では教育と研究だけでなく、商業化も重視することが示されています。

実は、日本の製薬ベンチャーは、かなりピンチなんです。開発品目数はG7の中でも最下位で、特許件数も中国が飛躍的に伸びています。こうした状況を改善していきたいと考えています。

私の所属している慶應義塾大学は、3つの責務を掲げています。

1)研究 2)教育 3)アントレプレナー

アントレプレナー = 「起業家精神。新しい事業の想像意欲に燃え、高いリスクに果敢に挑む姿勢。」

これらの責務の一つとして、慶應義塾大学では、慶應義塾健康医療ベンチャー大賞という大会があり、ヘルスケアビジネスのアイデアを競い合っています。私も、留学中に研究していたスマートコンタクトレンズの発表をここでしたことがあります。

 

スマートコンタクトレンズとは?

一言で言うと、従来のコンタクトレンズの視力矯正の目的だけでなく、バイオセンサーや薬剤を付加した機能を有するコンタクトレンズです。私の提案するスマートコンタクトレンズは、薬剤徐放と眼圧計測ができるモデルです。具体的な用途としては、緑内障の患者さんです。眼圧の上昇が原因である緑内障の患者さんの眼圧を眼圧センサーで測定し、その数値次第で、薬剤をレンズから投与するというものです。技術的、経済的ハードルが高くて未だ実現はできていないのですが、、、

 

2 トランスレーショナルリサーチと坪田ラボ

トランスレーショナルリサーチの定義

アカデミアでの基礎研究で得られた成果を臨床に使える新しい医療技術・医薬品として確立することを目的に行う、非臨床から開発までの幅広い研究のこと。橋渡し研究ともいう。

坪田ラボとは?

慶應義塾大学教授の坪田先生が立ち上げられたベンチャーラボです。「イノベーションで、世界をごきげんに、健康にする」というビジョンのもと、近視、ドライアイ、老眼に革新的なソリューションを開発する慶應大学発ベンチャーで、近視、ドライアイ、老眼の予防法と治療法を開発しています。特に、近視にならないことを中心にすえて、研究しています。というのも、近視は、緑内障、白内障、網膜剥離などの眼疾患のリスクファクターなのです。近視を防ぐとことは、眼の病気全体を防ぐことになるんです。

ただ、これらのやりたい研究をするには、億単位のお金が必要になります。坪田ラボでは、限られた予算の中で収益をだす仕組みをコンサルティングしながら研究をすることで、収益をあげております。

ライター槌田健太
自分のやっている基礎研究が社会実装されるというのは、この上なく幸せそうだなと思いました。

3 研究内容

世界で近視は増え続けています。2050年には、世界の半分が近視になると言われているんです。近視の人は、60年前から増え続け、いまでは、4倍になっています。

なぜ近視が増えている?

屋外活動時間が短くなったことが関係しています。たとえ親が近視であっても、屋外活動時間が長いと、近視を抑制する傾向があります。慶應義塾大学眼科の坪田先生、鳥居先生らが中心となって研究した結果、太陽光に含まれるバイオレットライトが近視を防ぐことがわかったんです。

バイオレットライト領域の光を遮断するメガネ(通常のメガネ)とバイオレットライトを通すコンタクトレンズでは、一年間の近視の伸び具合が異なる、という実験データも発表されています。つまり、バイオレットライトは近視を抑制する効果があるんです!

肝煎りプロジェクト:円錐角膜の新しい治療「ケラバイオ

近視は眼球が伸びることが原因ですが、角膜が伸びることが原因で起こる病気もあるんです。私の専門は、円錐角膜(角膜が伸びた状態)なんですが、バイオレットライトでその治療を行えないかと考えています。昔は、円錐角膜の治療法といえば、角膜移植しかなかったのですが、ここ10年でバイオレットライトを利用した治療法が出てきました。その治療法が、角膜クロスリンキング(CXL)です。バイオレットライトは、コラーゲンを架橋(クロスリンキング)させ、角膜を硬くすることで、角膜の強度をあげる可能性があります。

角膜手術は、やはり医師にも患者さんにも負担が大きいため、より負担の少ない治療法として期待されています。CXLは、円錐角膜の進行抑制に効果的な治療法で、太陽光に含まれているバイオレットライトを応用しています。

ケラバイオ = バイオレットライトメガネ ×  角膜クロスリンキング(CXL)

そこで、私が考えたのは、低侵襲角膜クロスリンキング「ケラバイオ」です。これは、従来のCXLとバイオレットライトメガネを組み合わせた治療法です。この治療法が、円錐角膜の新しい治療法になることを期待しています。

ライター槌田健太
留学中に研究→新しい治療法の開発 という流れがとても明確でわかりやすく、留学で得た経験がフルに生かされている人生だなと感じました!

4 留学

留学したのは、研究をする上で、最新の研究をみたり、触れたりしたいと思ったからです。外国で暮らしていると、納得できないこと、理解できないこと、不便なことばかりでしたが、海外生活ってこんなものかなとスルーするようにしていました。また、日本を客観視する機会となり、日本のよさを理解できたり、日本をよくしていきたいと考えたりするようになりました。

留学のメリット

・全てが刺激的

・打たれ強いメンタリティ

・新しいネットワーク、人脈

・英語力向上

・日本の長所、短所を再発見

 

留学のデメリット

・所得減収の可能性→フェローシップ、グラント(研究奨学金)獲得

 

留学前にするべきこと

  • コネクション作り
  • フェローシップ、グラント(研究奨学金)獲得
  • 嫁と職場のブロック解除、説得(家族の反対を押し切る?)
  • ある程度の業績

 

留学先は、ボストンのマサチューセッツでした。過去にも日本人の著名な先生が留学されていて写真が飾られていました。ボスの判断により、外来をさせてもらうこともできました。

留学のすすめ

留学は、なるべく若いうちにしておくことをお勧めします!私自身、行く前には旅行の延長かなと捉えていましたが、今後どう生きるか、どう働くかを考えるきっかけとなり、とても有意義でした。学生として行くのと、医師として行くのでも捉え方が違うと思います。

ライター槌田健太
私も留学経験があり、留学を通して、日本を主語か目的語にして物事を考えるようになりました。住む環境を変えることは、自分を成長させる上でとても重要なことだと思います。

5 今後のビジョン

人工知能

グーグルのディープマインドが、イギリスの眼科病院とAIを活用して眼底画像を解析する研究をしています。これは、人工知能によって、眼底写真から自動判定するというプログラムです。

IoT

遠隔医療の規制緩和により、インターネットを介した広義の対面医療が可能になっています。現在開発中のものとしては、涙液中の血糖値を測定することで、非侵襲の血糖値測定機器などがあります。

ミャンマー市場

日本の眼科医は、約1万2000人(眼科医一人当たり約1万人)なのに対し、ミャンマーは人口約6000万人で眼科医が100人程度(眼科医一人当たり約60万人)しかいないんです。さらに、ミャンマーの眼科医のスキルが高くなく、眼底を見ることができません。そこで、教育を変えて、眼底写真を見ることができるカメラを普及させ、日本に写真を送ることで、日本で診断するというビジネスモデルに取り組んでいます。

ライター槌田健太
AIやIoTなどの最新医療にも精通している小橋先生の視野の広さに驚きました。イノベーションを起こすには、一つの分野に精通しているだけでは不十分ということなのでしょう。

6)最後に

アイデアを世に出すのは、とても大変なことで、必ず全てが成功するわけではありません。私自身、現在取り組んでいることのうちの一つが成功すればいいなと考えています。数打てば当たるというわけではありませんが、成功確立は上がるし、そのプロセスは自分の中に蓄えられていきます。そういったことを意識できている人はあまりいないと感じているため、若い人たちがやりたいことを見つけたときに、サポートできるような人になりたいです。一番根っこの部分である、何をしたいかというアイデアは、臨床現場からしか得られません。世の中のニーズを読み取っていくことで、イノベーションのヒントが得られるでしょう。

ライター槌田健太
ライターの感想

小橋先生は、とても落ち着いてお話をされましたが、現状の日本の課題や未来の変化を見据えて活動されており、落ち着いた雰囲気に潜む情熱を感じました。わたし自身、AIは今後ますます医療分野に導入され、医師のあり方は変化していくと考えているため、5)今後のビジョン は、特に興味深いお話でした。小橋先生がこれから作っていく、近視のない世界を楽しみに待ちたいと思います!

文=槌田健太 (@ebiebi9999ebi)

 

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ABOUTこの記事をかいた人

槌田健太

岡山大学医学部医学科/医師ラボライター /機械学習、論理生命学、サイバネティクスに興味あり/ヘルスケアビジネス研究会